AIへの質問がうまい社員だけ得をする。会社はその差を放置していいの?

同じChatGPTを使っているのに、社員によって仕事の速さも成果物の質も違う。そんな状況を、会社は放置していいのでしょうか。

特に社員30人以下の会社では、AIを使いこなせる人と、うまく使えない人の差が、そのまま業務の負担や評価の差につながる可能性があります。
今回は、営業担当が顧客への問い合わせ返信を作る場面を例に、AIへの質問が得意な社員に頼らず、会社全体で仕事の質をそろえる方法を考えます。
同じAIなのに、なぜ社員によって結果が違うのか
例えば、ある会社で営業担当のAさんとBさんが、同じ問い合わせを受けたとします。
顧客から届いたのは、こんな質問です。
「御社のサービスを導入する場合、初期費用と導入までの期間を教えてください」
AさんはChatGPTにこう入力します。
「この問い合わせへの返信メールを作って」
AIは丁寧な文章を作ります。しかし、会社の料金体系も導入までの流れも知らないため、一般的な説明になったり、根拠のない費用や日数を書いてしまったりする可能性があります。
結局、Aさんは文章を読み直し、間違いを修正し、必要な情報を追加します。
一方、Bさんはこう質問します。
「次の問い合わせに対する返信案を作成してください。初期費用は個別見積もり、導入期間は要件確認後に案内します。金額や日数は推測せず、不明点は確認事項として残してください。丁寧で簡潔な文章にしてください」
こちらは会社の前提条件が伝わっています。
もちろん、Bさんの文章も確認は必要です。しかし、Aさんより修正箇所が少なくなる可能性は高いでしょう。
差を生んでいるのは、AIの性能ではなく、AIに渡した情報の違いです。
質問がうまい社員ほど、仕事を早く終わらせられる
ここで問題になるのは、Bさんが得をすること自体ではありません。
工夫した社員が仕事を効率化できるのは、自然なことです。
問題は、その工夫が個人の中だけに残ってしまうことです。
Bさんは短時間で返信案を作れるようになっても、Aさんは毎回試行錯誤する。別の社員は、そもそもChatGPTに何を入力すればいいか分からない。
その結果、同じ会社の同じ業務なのに、担当者によって作業の進め方が大きく変わります。
経営者としては、ここを見過ごせません。
例えば、Bさんが休んだとき、ほかの社員は同じ品質で返信を作れるでしょうか。
Bさんが退職した場合、その人が工夫してきたAIの使い方は会社に残るでしょうか。
これはAIだけの問題ではありません。
Excelの関数を一人しか理解していない、営業資料の作り方をベテランしか知らない、といった状況に似ています。
つまり、AIの質問力も、個人に閉じ込めてしまえば業務の属人化になるということです。
「AI研修を受けさせれば解決する」は本当か
ここで、社員全員にプロンプトの研修を受けさせようと考える会社もあるでしょう。
研修そのものは有効です。ただし、それだけで問題が解決するとは限りません。
AIへの質問には、目的の伝え方、前提条件の整理、出力形式の指定など、覚えることがあります。
そして、学習した内容を実際の仕事で使い続けられるかどうかは、社員によって異なります。
毎日AIを使う社員なら、自然と質問の仕方も改善されるでしょう。
しかし、週に一度しか使わない社員は、前回どんな質問をしたか忘れてしまうかもしれません。
会社が全員に同じレベルの質問技術を求め続けるのは、現実的ではありません。
私が重要だと考えるのは、社員全員をプロンプトの達人にすることではなく、質問が苦手な社員でも一定の品質で仕事を始められる状態を作ることです。
そのために必要なのは、難しい研修よりも、実際の業務に合った共通の質問文です。
会社で共有すべきなのは「質問のうまさ」ではない
では、何を共有すればよいのでしょうか。
先ほどの顧客への問い合わせ返信を例に考えてみます。
Bさんが使った質問を、そのまま社内チャットに投稿するだけでは不十分です。
なぜなら、別の問い合わせが届いたとき、その文章をどう変更すればよいか分からない社員もいるからです。
共有すべきなのは、特定の質問文だけではありません。
何を入力し、何をAIに任せ、何を人間が確認するのかという仕事の進め方です。
例えば、問い合わせ返信では次のように整理できます。
- AIに渡すもの:問い合わせ内容、回答に必要な会社の確定情報
- AIに任せるもの:返信文の下書き、文章の整理
- AIに任せないもの:価格や納期の決定、未確認情報の推測
- 人間が確認するもの:回答の正確性、顧客への約束、送信内容
これなら、AIの知識が少ない社員でも、何から始めればよいか理解できます。
また、会社として守るべき条件も明確になります。
特に注意したいのは、AIに渡す情報です。
顧客の氏名、メールアドレス、契約内容などを、許可なく外部の生成AIサービスに入力してはいけません。
実際の顧客情報を使用する場合は、会社が認めたサービス・設定・入力範囲に従う必要があります。
今回のような練習なら、顧客名を含まない架空の問い合わせで十分です。
今日から使える、問い合わせ返信の共通質問文
ここまでの考え方を、そのまま実務に落とし込んでみましょう。
社員全員が同じ質問文を使い、必要な部分だけ変更する方法です。
社内共通の質問文
あなたは当社の営業担当を補助するAIです。
以下の情報をもとに、顧客への問い合わせ返信案を作成してください。
【問い合わせ内容】
ここに問い合わせの内容を入力する。
【会社として回答できる情報】
ここに確認済みの料金・納期・サービス内容などを入力する。
【作成条件】
- 丁寧で分かりやすい文章にする。
- 回答できる内容だけを書く。
- 不明な情報は推測しない。
- 金額や日数を勝手に決めない。
- 回答に必要な情報が不足している場合は、返信案とは別に「社内確認事項」を記載する。
- 件名と本文を作成する。
この質問文の特徴は、難しいプロンプト技術を必要としないことです。
社員が変更するのは、基本的に「問い合わせ内容」と「会社として回答できる情報」の部分だけです。
もちろん、どんな問い合わせにも完璧に対応できるわけではありません。
料金交渉、クレーム、契約条件の変更など、判断が必要な内容は担当者や責任者による確認が必要です。
ただ、日常的な問い合わせ返信であれば、最初の下書きを作るための共通の出発点になります。
社員ごとに毎回ゼロからAIへの質問を考える必要がなくなるのです。
共通の質問文を作っただけでは、まだ足りない
ここで終わらせると、別の問題が発生します。
共有した質問文が、いつの間にか古くなることです。
例えば、会社の料金体系やサービス内容が変わったとします。
以前の情報を前提にした質問文を使い続ければ、AIは古い内容に基づく文章を作る可能性があります。
また、社員が自分の判断で条件を書き換え、社内に複数のバージョンが広がることも考えられます。
そこで、共通の質問文は次の4段階で運用します。
① 対象業務を決める
まずは問い合わせ返信だけに限定します。複数の業務を一度に共通化する必要はありません。
② 質問文を共有する
社内で閲覧できる場所に最新版を置きます。どれを使えばよいか迷わない状態にします。
③ 出力結果を確認する
社員がAIの回答を読み、会社の確定情報と照合します。送信の判断は人間が行います。
④ 改善内容を反映する
使いにくい部分や不足していた条件を集め、管理担当者が共通の質問文を更新します。
重要なのは、社員が自由に改善を提案できても、正式版の管理は会社が行うことです。
これなら、AIへの質問がうまい社員の工夫を、ほかの社員にも利用できる形で残せます。
社員のAIスキルをそろえるより、仕事の進め方をそろえる
AIへの質問が得意な社員がいることは、会社にとって強みです。
だからこそ、その社員だけが便利に使える状態で終わらせるのは惜しいと思います。
質問が苦手な社員を責めても、会社全体の業務効率は上がりません。
一方、得意な社員の工夫を共通の仕事の進め方に変えれば、ほかの社員もその成果を利用できます。
ここで目指したいのは、全員がまったく同じ文章を作ることではありません。
誰が担当しても、必要な情報を確認し、AIに適切な仕事を任せ、最後は人間が判断できる状態です。
今回の内容を自社で試すなら、まず次の4点だけ確認してください。
- 問い合わせ内容を整理したか
- 確定済みの情報を用意したか
- 推測を禁止する条件を入れたか
- 送信前の確認者を決めたか
この4点がそろえば、少なくとも「AIに何となく質問して、その答えをそのまま使う」という状態から抜け出しやすくなります。
AIの質問力を社員個人の能力として評価するだけでなく、会社に残せる業務の仕組みに変えていく。
社員数が少ない会社ほど、一人の工夫を全員で使える形にする価値は大きいはずです。
今日やることは一つだけです。
営業担当が普段使っているAIへの質問文を一つ集め、全員が使える共通の質問文に書き直してみてください。
そこから、会社全体のAI活用を始められます。
もっと具体的な手順とテンプレートが必要な方へ
問い合わせ返信の共通質問文を作るだけでなく、入力情報の整理、出力結果の確認、改善内容の反映までを社内で回せる形にまとめた有料記事があります。

この記事の続きを、社内で回せる形にまとめました
この記事で扱った話の続きとして、問い合わせ・Excel・研修・採用・SNSにそのまま使えるプロンプトとテンプレ、社内のAI利用ルール雛形、使い始める前の安全チェック、30日の導入計画までを1本にまとめました。
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